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目標15「陸の豊かさも守ろう」

更新日:7月9日

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今回は、目標15「陸の豊かさも守ろう」についてです。

例えばこんなことが危惧されています。生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)による「生物多様性と生態系サービス※1に関する地球規模評価報告書」によれば、鳥類の14%、針葉樹の34%、哺乳類の25%、両生類の41%が絶滅の危機にさらされているそうです。

出典:2019 Global Assessment Report on Biodiversity and Ecosystem Services(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)(IPBES)
出典:2019 Global Assessment Report on Biodiversity and Ecosystem Services(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)(IPBES)

こうした事態を食い止めることがなぜ必要なのかというと、生物多様性とこれによって支えられる生態系サービスは、気候変動への適応と防災に関する戦略の基盤にもなるからです。気候変動の影響に対する我々人間のレジリエンス(強靭化)を高めるような恩恵も与えてくれます。例えば、森林は土砂災害を防いでくれますし、サンゴ礁は台風や高潮による被害を軽減してくれます。こうした生態系の持つ多様性と機能は、気候変動に対する人間の適応能力を高め、より強靭な社会を構築する上で極めて重要です。

 ※1 生態系サービス:食料や木材などの供給、気温の調節、水の浄化、自然災害の防護、文化的・精神的な質の向

           上など、生態系が持つ様々な機能や供給される便益を総称して「生態系サービス」いいます。


そして、地球上の陸地面積のほぼ31%を占めているのが森林です。私たちが吸う空気から私たちが飲む水、さらには私たちが口にする食料に至るまで、森林は私たちの生命を維持するために、おおきな役割を果たしています。陸生動植物・昆虫種全体の80%以上が森林を住処としていますので、森林の保全は陸の豊かさを守るための重要なイシューです。さらに、全世界で上位を占める処方薬の 4 分の 3 は、植物エキスに由来する成分を原料に含むため、これらが脅かされることにもなりかねません。森林の破壊と劣化は、全生物種の生息地の喪失、地球上の水のわずか3%でしかない淡水の水質低下、土壌浸食の増大、土地の劣化、そして大気中への炭素排出量の増大を引き起こします。

最近、ネイチャー・コミュニケーションズ誌で発表された最新の研究結果によると、約2億5200万年前に起こった「大絶滅」として知られる大量絶滅により生命の約90%が死滅したそうですが、その要因は熱帯林をはじめとした植物種がすべて死滅したことによって大量の炭素などの温室効果ガスが大気中に放出され、「超温室」が500万年も続いたことによるということです。その時の原因は、火山活動にあったようですが、現代においてでも、私たちがこのまま化石燃料を使い続ければ、不可逆的な大絶滅が起こるのかもしれませんし、それはもう起こりかけているのかもしれません。そしてその閾値は、誰にもわからないのです。

その一端が垣間見れるような事実もあります。国連によると、世界中で年間1200万haのペースで砂漠化が進行しているそうです。その原因としては、気候変動による乾燥のほか、森林伐採による土壌の流出、過放牧による植生の減退、不適切な灌漑などが挙げられます。このことによって、今後10年で5,000万人の人が今居住している土地からの移住を余儀なくされるといいます。


このように、海の豊かさも含めて、生物多様性を維持していくことは、気候変動対策だけでなく、持続可能な社会を築いていくためにも不可欠です。

国連の生物多様性条約締約国会議においても、2010年の第10回締約国会議(CBD-COP10)にて採択された2020年までの目標、いわゆる「愛知目標」が達成できなかった反省のもとに、2020年12月にカナダ・モントリオールで開催された第15回締約国会議(CBD-COP15)において、ポスト2020生物多様性枠組みにあたる「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が採択されました。この生物多様性条約は、人と自然の共生および、人と地球の持続可能性の確保に向けて、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルでネイチャーポジティブ(自然再興)を目指すという意欲的な目標を掲げていて、「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」では、生物多様性の観点から、2030年までに世界の海と陸の30%以上を保全する(30by30目標)ことや、循環型社会の促進、生物多様性を活用したビジネスの展開などが、具体的な目標として掲げられました。

30by30については、2021年6月に英国・コーンウォールで開催されたG7サミットにおいても「G7 2030年 自然協約」として追認されました。

そして、荒廃が進行する自然環境や絶滅する生物種を食い止めるためには、あらゆるところから資金を調達して、投入することも必要だと考えられますが、それだけでは一時的な状況の打開策になったとしても、継続し続けることは難しいでしょう。そのためには地域コミュニティの能力向上を図り、持続的な生計機会や継続した収入を得るための仕組みづくりが重要だとされています。持続的に安定した生計機会が得られれば、保護対象となる動植物の乱獲や密猟を行う必要もなくなるだろうという考えに基づくものです。また、保護種の密猟などの違法取引を取り締まる活動に対しては、国際的な協力や支援の強化も必要になります。


生物多様性を維持していく上で私たちにできることとして、生態系に配慮した商品に付与されるさまざまな認証制度が存在しており、そうした認証を得た商品を購入することで、生態系保全に貢献することができます。

引用:FSCジャパン ホームページ
引用:FSCジャパン ホームページ

森林管理協議会(Forest Stewardship Council)が運営する森林認証制度「FSC認証」を受けた用紙や木材、国際的な非営利団体である「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」が運営するRSPO認証を受けたトイレタリー製品、農林水産省が認可した登録認証機関が認証した農薬や化学肥料をほとんど使わずに、自然の力で生産された食品を示す「有機JISマーク」表示商品などがあります。

引用:公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
引用:公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)

私たち自身の存在によって、私たちが属する生態系が変わってしまうことは、もはや避けようがありませんが、それでも私たちが森林を保全し、生物多様性維持のためにできることも多くあります。例えば、さまざまな製品や素材のリサイクル、持続可能な供給源を利用した地産地消の食生活、必要なものに限った消費、効率性の高い空調システムを通じたエネルギー使用の抑制など、さらに野生生物も尊重し、その生態を混乱させないよう、責任ある形で倫理的に運営されたエコツーリズムにのみ参加することで、健全な生態系を支えることができ、同時に私たち人間の健康維持にもつながります。


生物多様性に直接つながるわけではありませんが、とてもいいと思った図鑑を一冊紹介します。原題は「AtlasおfExtinct Animals」といいます。著者は詩人でもあるRadek Maly(ラデク・マリー)で、有史以前から現代までに絶滅した数多の動物の中から41種を厳選して、我々人類(ホモ・サピエンス)とのかかわりを描いています。的場 知之氏の翻訳による邦題は「人類が滅ぼした動物の図鑑」です。

人類が滅ぼした動物の図鑑(丸善出版株式会社)
人類が滅ぼした動物の図鑑(丸善出版株式会社)

我々人類も、誕生以来、困難な生存競争を生き抜いてきたのだと思います。その結果として、おそらく地球上で唯一、生息環境を自分たちに有利なように、好きなように改編する力を持ちました。特に産業革命以降は、他の生物種の生息域をあらゆる形で荒らして、「開発」という名の環境改変を進めてきました。生命誕生以来6度目の大量絶滅が進んでいるといわれる現代において、多様性を維持する"知恵"を持っているのも、我々人類だけかもしれません。



 
 
 

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