目標12「つくる責任 つかう責任」
- Shuichi Yamamoto
- 6月16日
- 読了時間: 7分

今回は、目標12「つくる責任 つかう責任」についてです。
2013年4月24日にバングラデシュの首都ダッカ近郊で、8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上の犠牲者をだしました。このラナ・プラザには、27のファッションブランドの縫製工場が入っていて、この事故で犠牲になった人の多くはその工場で働いていた若い女性たちだったため、ファッション史上最悪の事故とも呼ばれています。

事故の原因は、ずさんな安全管理でした。ラナ・プラザは以前から耐震性を無視した違法な増築を繰り返していて、事故の前日にも建物に入ったひび割れが発見されたにもかかわらず、建物の所有者は安全のための警告を無視。労働者たちは「翌日まで帰宅するな」と命じられて、避難することもできず、翌朝のラッシュアワーの間にビルが倒壊したそうです。事件後、ブランド側は「そんな状況にあるとは知らなかった」と責任を否定しましたが、グローバルに展開するファッションブランドの製品が手ごろな価格で手に入る裏には、この事故のように労働者を低賃金かつ劣悪な環境で働かせることで成り立っていたのかという批判を浴び、ファッション業界におけるサプライチェーンの透明化が求められる契機となりました。
もう一つ。下の写真はインドネシアのボルネオ島にあるプランテーション(大規模農園)の写真です。普通の畑のように見えますが、右側に見える道路は大型のトラックが余裕で行き違えるほどの広い道路ですので、かなり広大な農地に大きな作物が育てられていることがわかります。この土地は、かつて熱帯雨林が生い茂る森でした。熱帯雨林は東南アジア、中部アフリカ、中南米などに多く見られ、特徴としては生息する生物の多さ、種の多様さ(生物多様性)が挙げられ、複雑な生態系を形成していて、全世界の生物種の半数以上が熱帯雨林に生息しているとも言われています。また、大気中に含まれる酸素の40%は熱帯雨林によって供給されたものといわれていて、地球に住む生物にとってとても貴重なものです。そこが破壊されて、このような農園に姿を変えてしまいました。ですので、熱帯雨林の伐採が温室効果ガスを増やし、地球温暖化につながるともいわれています。

ここで育てられているものはアブラヤシと呼ばれる植物で、これを絞るとパーム油、パームオイルなどと呼ばれる良質な植物油がとれます。このオイルが何に使われているかというと、例えばポテトチップスのようなスナック菓子です。スナック菓子は余り食べないしな、という方もいらっしゃるかもしれませんが、それ以外にも、チョコレートだったり、アイスクリームだったり、カップラーメンだったり、ドレッシングなどにも使われています。さらに、食べ物だけでなく、シャンプーだったり、洗剤だったり、あとは化粧品などにも使われています。

わたしたちが安いスナック菓子、例えばスーパーで100円と200円のスナック菓子があって、どんな作られ方をしたか分からないけれど、ただ安いという理由で100円のスナック菓子を買う。するとメーカーは、スナック菓子をより安くつくるために安いパーム油を求める。わたしたちが安いスナック菓子を買うという選択がそのメーカーの行動を買い支えている、といえるかもしれません。そしてより効率的に安いパーム油をつくるために大きなやし農園を作る。そしてそれによって森林伐採が止まらない。森林伐採が温室効果ガスを増やし、地球温暖化につながる、というこの常識の裏側に、こんなつながりがあるかもしれません。
そして、つながりはひとつではなく様々な方向へつながっています。
例えば賄賂を使って伐採してはいけないエリアの熱帯雨林を伐採する。さらにはその熱帯雨林で生活を営んでいた人たちが伐採によって生活できなくるため、その人たちを雇用という名目で奴隷のように劣悪な状況で労働に従事させてより安く収穫する。その中には児童労働なども含まれていたりするわけです。そして熱帯雨林の減少は野生動物の住処の減少を意味し、生態系破壊を引き起こしています。
ただし、パーム油全てが悪いというわけではありません。しっかりとサステナビリティや生態系、人権に配慮されたパーム油もあります。つまりパーム油が良い、悪いという話ではなく、例えば「スナック菓子を買う」という、私たちのその小さな選択さえも、SDGsにつながっているということです。
メーカーをはじめとした企業も、わたしたち消費者も、"安い"とか"便利"とかだけでなく、エシカル(倫理的)でサステナブル(持続可能)な製品やサービスや消費を考えなくてはならない責任を負っているのかもしれません。
実際に企業にしても、個人にしても、"責任"の範囲は以前よりも広がっているように感じます。2019年に、米アップル、テスラ、グーグルの親会社アルファベット、マイクロソフト、デルの5社が人権保護団体から提訴されました。理由は電子機器や自動車に使うリチウムイオン電池の原料であるコバルトの採掘現場における児童労働を助長しているとされました。仕入れ先での人権侵害に目をつむって、コンゴ民主共和国の子供たちが採掘したコバルトから利益を得ているとして非難されたのです。
オウルズコンサルティンググループ代表羽生田慶介氏の著書『すべての企業人のためのビジネスと人権入門』によると、例えば、こうした人権侵害のボーダーラインは、かつては法令や国家が規定していて、企業はコンプライアンス(法令順守)が守られていれば、責任を問われることはありませんでした。でも現在では、人権侵害のボーダーラインを決めるのは法令だけではなく、その決定権は投資家やメディア、NPO・NGO、そして一般消費者にまで広がっているということです。
確かに、法令違反がなければ罰則や罰金は科されませんが、投資撤退やSNSでのネガティブ投稿の拡散、あるいは不買運動などが起これば、企業にとってはより大きな影響が発生します。何とも生きづらい世の中だという声が聞こえてきそうですが、そういったことに対応することで、企業のサステナビリティが保たれる時代になったということでしょう。
最後にもう一つ、企業や個人のつくる責任、使う責任について。
現在、わたしたち人類は、1年間に地球が再生産できる自然資源の量を上回って資源を使ってしまっています。世界全体で、1年間に使えるだけの資源の量を使い切ってしまう日のことを「アース・オーバーシュート・デー」といいますが、2024年は8月1日と発表されました。8月1日にその年に使える資源を使い切ってしまうということは、言い換えると人類は生態系が再生する早さよりも1.71倍速く自然資源を消費しており、足りない分は将来の人びとが使うはずだった分を先取りして使っているのです。つまり、人類がいまの暮らしをこのまま続けるためには、1.71個分の地球が必要だということになります。
オーバーシュート・デーは、国ごとにも算出されていて、2024年の日本のオーバーシュート・デーは、5月16日と発表されました。これは、世界中の人が日本と同じ生活をするとすると、1年間に地球が再生産できる資源を5月16日には使い切ってしまうということを意味します。

アースオーバーシュートデーの日付は1971年には12月25日でしたが、1987年には10月、1999年からは9月になり、2005年以降は8月が続いています。
では、アースオーバーシュートデーを遅らせるにはどうしたらいいのでしょう。グローバル・フットプリント・ネットワークでは、「可能性の力(Power of Possibility)」と題して、「健全な地球」「都市」「エネルギー」「食」「人口」の5分野に分けて、取り組みごとに日付を遅らせるのにどれくらい効果があるかを紹介しています。そのうえで、「#MoveTheDate(日付を動かせ)」のスローガンを掲げて、「アースオーバーシュートデーの日付を毎年6日ずつ遅らせれば、人類は2050年までにオーバーシュートから脱け出すことができる」と呼びかけています。
また、エコロジカル・フットプリント・ジャパンでも、「日本のエコロジカル・フットプリントを削減する5つの方法」として以下の5つを内容を紹介しています。
1.省エネと再生可能エネルギーへの転換を進める。
2.都市集中ではなく分散型の居住と経済を進める。
3.輸入製品の環境負荷を減らす。
4.食生活を見直し、加工食品の利用を抑え、季節の地元産の利用を増やす。
5.食料廃棄を減らす。
目標12「つくる責任 使い責任」は、わたしたちの子や孫、未来の人類に対する責任でもあるのです。





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