コーヒー2050年問題
- Shuichi Yamamoto
- 8月4日
- 読了時間: 5分

「コーヒー2050年問題」というのをご存じでしょうか?これは、世界のコーヒー豆生産量の約6割を占めるのがアラビカ種という種類の豆なのですが、温暖化によって、その栽培に適した地域が2050年までに半減するというものです。
"私はコーヒーが嫌いだし、飲まないから"という方もいらっしゃると思いますが、この問題は、コーヒーが飲めなくなるということだけでなく、貧困問題や気候変動などが絡む緊急性の高い課題でもあるのです。
コーヒーの栽培は赤道を挟んで北緯25度から南緯25度の地域(コーヒーベルトと呼ばれます)で栽培されています。この地域には開発途上国が集中していることも特徴です。つまり、コーヒー栽培によって豊かになりつつある人々の収入源の一つなのですが、その収入が絶たれることにつながっているのです。
コーヒーはアカネ科コーヒーノキ属の数種の総称で、その木から採れる果実を加工してつくられます。飲用に栽培されるコーヒーの品種は「三大原種」と呼ばれるアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種の3つがあります。リベリカ種は栽培地域が少なく、コーヒー豆全体の流通量の1%以下なので、私たちが口にするコーヒーは、残る2種で占められています。
アラビカ種は高品質で味のバランスが良く、流通しているコーヒー豆の約6割を占め、"コーヒーの王様"と呼ばれるブルーマウンテンなどもこの品種で、風味や香りに優れています。しかし、コーヒーの木の大敵である「サビ病」という病気に弱く、土壌も選びます。標高900m以上の高地で、涼しい気温(15~24度)を好み、育てるのが難しく、手間がかかる品種です。非営利農業研究団体であるワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)によると、2050年までにアラビカ種の栽培に適した土地が75%も失われるということです。

また、ロブスタ(カネフォラ)種はアラビカ種に次いで多く生産されており、苦みが強いのが特徴で、インスタントコーヒーや缶コーヒーなどの原料に多く使用されています。アラビカ種に比べて病虫害に強く、標高300m程度の低地でも栽培でき、アラビカ種と比べて高温(24~30度)を好む種ですが、雨期の平均気温が1度上昇するごとに、収穫量が14%減少することがわかっています。WCRによると2050年までに生産可能地域の63%が失われるということです。
このように、繊細で育てるのが難しいコーヒーは、地球温暖化による気候変動によって大きな影響を受けてしまいます。産地ではすでに、雨季と乾季が乱れ境目がなくなってきていたり、温暖化により昼夜の寒暖差が減る、干ばつが起きる、サビ病などの病気が発生する、といった多くの問題が発生しています。
実際に、世界第2位の生産量を誇るベトナムでは、2023年5月に過去最高の気温44.1度を記録し、さらに干ばつも重なったことから、コーヒーの記録的な不作が起きました。そのため2024年には、日本でもコーヒーの値上げが相次ぎました。
コーヒーを産業としての側面からみると、世界70カ国以上で生産され、約2500万世帯が従事する巨大な産業です。そして、その多くが栽培地面積5ヘクタール以下の小規模農家であり、中南米やアフリカなどの発展途上国が主な産地です。
小規模農園では、少しの自然災害でも大きなダメージを受けてしまいます。干ばつやサビ病により品質が低下して、出荷量が減少すれば、収入も大きく減少します。このような地域ではそういった経済的ダメージが貧困に直結してしまうのです。
さらに、高騰する農薬などによって、2006年から2015年の10年間で、コーヒー豆が生産コスト以下で売られていたというケースも報告されています。
その逆に、中国をはじめとするアジアでの消費は増え続けており、2020年から2030年までに、世界のコーヒーの消費量は25%増加するとの試算もあります。これまでの需要と供給のバランスが崩れ、コーヒー豆価格の大幅な高騰が起こり得るといった矛盾した状況も現れています。
問題解決へのアプローチ
この問題を解決するために、最も大切なことは、一番の原因とされるのが地球温暖化による気候変動である以上、それを食い止めることがもっとも重要な対策であることは自明です。SDGsにも、目標13「気候変動に具体的な対策を」が設定されています。それなのに、6月に発表されたSDSN(国連持続可能な開発ソリューションネットワーク)による「持続可能な開発報告書2025(SDR)」では、2030年までの目標達成が危ぶまれている状況です。
気候変動問題は、コーヒー2050年問題に限らず、我々人類にとって、いや、地球に生きるすべての生物にとって、緊急に取り組むべき課題です。
生産者の貧困に対するアプローチとしては、「フェアトレード」の推進です。
フェアトレードとは、生産や生産者の労働に見合った価格で、対等に取引が行われる貿易システムやパートナーシップをいいます。とくに発展途上国の生産者に対し、生産された原料や製品を適正な価格で購入し続けることで、立場の弱い生産者の賃金や労働環境、生活水準が向上する、持続可能な取引きを目指すことです。
国際フェアトレード基準では「フェアトレード最低価格」が定められており、国際市場価格がどんなに下落しても、輸入業者はフェアトレード最低価格以上を生産者組合に保証しなけれならないことになっています。
わたしたち消費者も、フェアトレード認証を受けているコーヒーを積極的に消費するという行動変容を起こすことで、コーヒーの適正価格での取引きを推進させるきことにつながります。

コーヒーが不足することに対するアプローチとしては、まず、高地・高緯度への生産地の移動があげられます。
実際に、コロンビアやボリビアなどのアンデス地域、パプアニューギニアの中央高地、ルワンダなどでは、すでに標高2000mを超える高地や、北緯25度を超えるネパールなどでもコーヒー栽培がおこなわれていますが、生産地の移動は、現生産地の人々の収入減につながり、貧困を生み出しかねません。
そこで、WCRが中心となって、高温や病気に強く、収穫量や風味も優れた新たな品種の開発も始まっています。時間やお金の投資が難しい発展途上国の小規模農園に代わって、病気や気候の変化に強い新種の開発や生産性向上のための技術開発などにも取り組んでいます。





コメント