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目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」

今回は、SDSN(持続可能な開発ソリューションネットワーク)が2024年に発表したレポート(*1)において、日本がSDGs17の目標のうち、唯一達成していると評価された目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」です。

この目標は主に、産業・イノベーション・インフラに焦点を当てた目標です。

 *1:SDSNによる、2025年版の持続可能な開発報告書(SDR)は米国東部時間の2025年6月24日    に発表されるとのこと。


ユニセフによると、2050年までに世界人口の3分の2以上の人が都市部にすむようになるそうです。一般的に、農村部と比べて都市部のほうが様々な施設・設備が整っているので、より質の高い教育や医療を受けられる人が増えるとも言えますが、一方で、都市部の中で貧富の格差が広がり、いわゆる「スラム」といわれる地域が形成されて、今現在も問題となっていますが、より一層顕在化する恐れがあります。世界中に点在するスラムの人口は、現在8億8,000万人といわれており、そのうち3億人が子どもです。多くの人が犇き合うように暮らすスラムでは、行政の手も届きにくく、水やトイレ、ごみの処理など生活に必要な設備も十分でないため、衛生状態も悪く、5歳未満死亡率は農村部よりもむしろ高くなっていたりします。

出展:UNICEF
出展:UNICEF

このような問題を解決するためには、単に「スラム」という地域を物理的になくすということではなく、根本原因である格差を解消するような公共サービスの在り方や富の再配分や教育格差の解消など、多角的な取り組みが必要だと感じます。


今や私たちの生活において、水道や道路・鉄道網と同じくらいというか、場合によっては、むしろそれ以上に重要となってきているのがインターネット。コミュニケーションツールとしてはもちろん、あらゆる産業の技術革新を支えています。我が国日本におけるインターネットの普及率は、個人ベースで86.2%だそうですが、

出展:総務省 令和6年版情報通信白書
出展:総務省 令和6年版情報通信白書

世界に目を移すと、高所得国での普及率は93%に達している一方、低中所得国では54%、低所得国においてはわずか27%に過ぎません。そのような国において、新しい産業を生み出したり、既存産業の技術革新を進めていくためにも、早期にインターネットを使った技術革新を活用できるようになることが望まれます。そうすることによって、新たにAIを活用した遠隔医療や教育など、新たな技術やサービスによって、地域間格差の減少や貧困から抜け出すことにつなげることもできます。


この目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」において、もう一つ重要な視点があります。それは「レジリエント(強靭)」であれということです。

地震大国といわれる日本では、たびたび大きな地震に見舞われ、甚大なダメージを受けてきました。まだ記憶に新しい「能登半島地震」の被災地では、2024年1月1日の発生からもうすぐ1年半が経とうとしている今も、復興はおろか復旧すらままならない地域もあります。近年は、気候変動の影響で、台風や水害などの影響も拡大していると感じている方も多くいますので、それら自然災害による水道や電気などのライフライン、さらに道路や鉄道なども含めて、万が一の事態が起こっても機能する代替システムの構築など、しなやかで柔軟性のある復旧・復興を実現するレジリエント化が求められています。

今後我が国においては、人口減少と超高齢化社会が進行する中で、インフラのレジリエント化とともに、老朽化への対策も同時にバランスよく進めていく必要があります。


また、産業と技術革新がサステナブルであるためには、あらゆる分野でイノベーションが必要です。日本においても、20250年のカーボンニュートラルを目指して産・官・学が一体となった取り組みがいくつもありますが、ここでは2つほど紹介しておきたいと思います。

1つ目は、「カーボンリサイクル」です。

CO2削減を目指す一方で、排出したCO2を分離・回収して、炭素資源(カーボン)として再利用(リサイクル)することで、大気中へのCO2放出を抑制するカーボン・マネジメント技術です。

2019年6月に経済産業省は「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を策定し、それに沿って広島県大崎上島にカーボンリサイクル技術の実証研究拠点を整備し、コンクリート、化学品、燃料など多様な製品として再利用することを目指しています。

出展:経済産業省 資源エネルギー庁
出展:経済産業省 資源エネルギー庁

もう一つは「核融合発電」です。

これは、太陽内部で起きている反応と同じで、原子核同士の融合によって膨大なエネルギーを生み出す技術です。燃料1グラム(*2)から石油8トンを燃やした時と同じエネルギーを得られるとされ、膨大なエネルギーを獲得できる一方で、核分裂の連鎖反応を伴う原子力発電と違って制御不能になるリスクが少なく、高レベルの放射性廃棄物も発生しません(*3)ので、安全性が高いとされています。発電時に二酸化炭素が発生しない脱炭素電源でもあり、世界で開発競争が活発化しています。

政府の先日の発表によると、次世代エネルギーとして期待される核融合発電の実現に向けて、国内に3か所ある中核研究機関を大幅に拡充する方針を固めたとのことです。発電設備の耐久性を調べる装置など、技術実証に必要な設備を約100億円かけて整備し、企業にも積極的な利用を促し、2030年代の商用化を見据えて激化する国際的な開発競争で優位に立つ方針です。

 *2:核融合発電の燃料は下図のように水素の仲間(同位体)である重水素(D)と三重水素(T)で、その原

   子核が融合するDT核融合反応では、ヘリウムと中性子ができます。その時に、核融合前の質量

   と核融合後の質量の違いが大きなエネルギーを生み出すのだそうです。

 *3:低レベルの廃棄物は生成されますが、生成しても速やかに減衰するようです。

出展:国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
出展:国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構

 
 
 

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