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目標8「働きがいも 経済成長も」

今回は目標8「働きがいも 経済成長も」についてです。

経済成長といっても、SDGsの目標ですからサステナブル、つまり持続可能性のある経済成長を目指しています。つまり、環境や社会との両立が重要になります。


SDGsの概念を表す構造モデルとして、「SDGsウェディングケーキモデル」と呼ばれるモデルがあります。これは、スウェーデンの首都・ストックホルムにあるレジリエンス研究所の所長、ヨハン・ロックストローム博士が考案したものですが、SDGsの目標17をケーキの頂点として、その下にある3つの階層「経済圏」「社会圏」「環境圏」によって構成されています。

この3つの階層の並び方にはそれぞれ意味があり、「経済」の発展は、生活や教育などの社会条件によって成り立ち、「社会」は最下層の「環境圏」、つまりわたしたちが生活するために必要な自然の環境によって支えられている。だから、どんなに経済が発展したとしても、そのために社会や環境を犠牲にするようなことがあれば、ウェディングケーキと同様、全体が崩れてしまうということを表しています。SDGsを含む国連の採択文書である「Transforming our world(我々の世界を変革する)」の中にも、“「経済」「社会」「環境(生物)」の3つの分野がSDGs達成への活動と互いにリンクし、なおかつそれぞれを分けて考えることができないもの”と記載されています。

出展:Stockholm Resilience Center
出展:Stockholm Resilience Center

この目標が掲げられた理由のひとつは、児童労働や人身売買といった人権にかかわる課題の存在です。

ILO(国際労働機関)とユニセフ(国連児童基金)が2021年に発表した報告書によると、児童労働に従事している子ども(5~17歳)は1億6,000万人にも上り、そのうちの約半数にあたる7,900万人の子どもが危険有害業務についているそうです。児童労働は、子どもたちの身体的・心理的・社会的、さらに教育による成長を阻害し、搾取するものです。そしてそのような現実の裏には、私たち先進国で生活している人が、安くておいしいものや、安くて高性能な製品を求めることとつながっていたりするのです。実際に、某有名衣料品メーカーの製品製造に児童労働がかかわっていることが問題になったことがありましたし、今や私たちの生活に欠かせないスマホやパソコンなどに使われるレアアースの採掘に子どもたちが従事させられていたことなども問題になりました。これらのメーカーは、その事実を知らないままに、児童労働という闇に関わってしまったというのが現実ですが、それを機に、原材料の採取・採掘から製造~流通まで、サプライチェーン全体に責任を持つことが求められるようになってきました。さらに、紛争地域などでは子どもたちを兵士として訓練し、実際の戦闘に参加させたり、性暴力・性被害の対象にされたりと、過酷な状況を強いられている子どもたちを、一刻も早く救わなければなりません。

こうした状況の背景には「貧困」という大きな問題があります。この子たちが属する家庭、地域、国家の貧困を補うために安い労働力として利用されています。そして、その貧困から抜け出すための有効な手段が「教育」であるわけですが、労働力として搾取される時間のために教育を受ける時間が無くなり、その手段すら搾取される。その結果、この状況が世代を超えて受け継がれるという負の連鎖が続いています。


こうした負の連鎖を断ち切るために、子どもたちに教育機会を与えなければなりません。そのためには、親世代に充分な賃金を支払える雇用を生み出すことが重要であり、その雇用を創出するための経済成長が必須となるのです。

しかし、こうした国の多くは急激な人口増加やそれに伴うエネルギー不足に直面しており、それを補うために大量の天然資源を消費せざるを得ません。ところがそれによって干ばつや河川の氾濫、酸性雨などの自然災害に見舞われるといった別のリスクが発生したりします。

これらの国が貧困から抜け出して経済成長の軌道に乗るためには、資源量を把握したうえで、使える範囲で有効活用するために生産性を向上し、またそれを可能にするイノベーションを、先進国をはじめとした世界全体で支援することで、環境と経済成長の両立を図ることが重要になります。


日本国内に目を向けると、新卒一括採用、終身雇用、年功序列など労働流動性の低い社会、制度が一般的でしたが、90年代以降のいわゆる"失われた30年"の低成長の中で、さまざまな制度疲労が顕在化してきました。近年は急激に変化する労働環境の中で、働きがいのある人間らしい雇用を意味するディーセント・ワークの推進やワーク・ライフ・バランスの充実などが叫ばれるようになり、そのためのリスキリングの必要性なども認識されるようになりました。

 ※私自身は、「ワーク・ライフ・バランス」よりも、「ワーク・イン・ライフ」という考えにシンパシーを感じます。

ただ、実態はどうかというと、厚生労働省の調査では自殺者の約1割が勤務問題を原因・動機としていますし、別の調査によれば、正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いている人の割合は減少傾向にあるものの、正社員と比べると相対的に賃金が低く、教育機会も約半分しか与えられていないこともわかっています。

また目標5「ジェンダー平等を実現しよう」でも触れたとおり、日本は世界的に見てもジェンダー格差が大きい国であり、賃金格差も大きく、女性管理職が少ないことも関すると思われる男性優位の制度や空気がまだまだ蔓延しています。世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数(GGI)」の2024年版で、日本は世界146カ国中118位。G7の中ではもちろん最下位で、OECD38カ国の中でも最下位です。特に政治分野113位、経済分野120位と、経済成長を目指す上でも足かせとなりかねない状況で、改善が急がれます。

これに関連して、昨年の総選挙後には、すぐにでも成立するのではと期待された「選択的夫婦別姓制度」の成立も覚束ない現状を見るにつけ、日本におけるジェンダー平等の実現にはまだまだ努力が必要なようです。


わたしたち個人個人が、目標8「働きがいも 経済成長も」に貢献できることとして、環境や社会、地域に配慮した消費行動を表す「エシカル消費」が若い世代から広がりを見せていますし、安易に"安さ"を求めず、途上国の原料や製品が適正な価格で、適正なルートを通じて購入されていて、途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を促し、持続可能な社会を目指す「フェアトレード」の基準をクリアした製品に与えられるフェアトレード認証商品を購入する、といった動きも見られます。

もちろん、自身の働き方や価値観について、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み、偏見)が"ある"ということを意識したうえで見直してみることも大切です。

 
 
 

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