目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
- Shuichi Yamamoto
- 5月12日
- 読了時間: 9分

今回は、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」です。
SDGs(持続可能な開発目標)において、目標1~6は”貧困”や”飢餓”など、一見開発途上国を対象としているように思われる目標が並んでいます。もちろんこれまで見てきたように、どの目標も先進国においても様々な問題を抱えていますし、全世界で一斉に取り組まなければならないのは言うまでもありませんが、この目標7からは、エネルギーや経済成長など、より身近な問題が目標として設定されているので、、みんなが自分事として考えやすいのではないかとも思います。
世界銀行によると、日本をはじめとして世界132カ国では電気普及率が100%に達しているそうです。でも、電気が供給されていない地域で生活している人が、サブサハラのアフリカ諸国をはじめとしておよそ13億人もいるとされています。
下の画像は、気象衛星から夜の地球を撮影した画像をつなぎ合わせたものです。日本や北アメリカ、ヨーロッパなどは陸地の形がハッキリとわかるほどの明かりが灯っていますが、南アメリカや特にアフリカ大陸を見るとその形はおぼろげになり、明かりがついていないことが見て取れます。

目標7はこうした地域に電気を供給できるようにすることが大きな目的のひとつです。しかも地球環境に負荷をかけない、クリーンで持続可能なエネルギーによってつくられた電気でなければなりません。
世界的にみると最終エネルギー消費量に占める電力の割合は20%ほどですが、アジアを中心に電化が着実に増加しており、その需要は増え続けています。
また、下のグラフは、世界の電源構成を表していますが、発電時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーによるものは、気候変動や地球温暖化などと関連して、近年急速に増加してはいるものの、やっと30%に達したところで、まだまだ化石燃料に頼っていることがうかがえます。

ただ、自国の保有資源や、ロシアによるウクライナ侵攻に見られるような地政学的リスクによって、各国の発電における持続可能性に向けた取組みにはさまざまな違いがあります。また、政権交代による政策変更などによっても大きな影響を受けます。
日本においても、身近な話題として再生可能エネルギーや自動車の電動化などが日々ニュースになっていますが、その電源構成の内訳をみると、石炭29.7%、LNG(液化天然ガス)30.0%、石油2.9%、その他火力7.7%、原子力5.3%、水力7.7%、太陽光10.6%、風力0.9%、地熱0.3%、バイオマス5.1%(2022年度)となっていて、太陽光や風力などいわゆる再生可能エネルギーは約24%あまりにとどまっています。
●クリーンエネルギーとグリーンエネルギー
環境に負荷の少ないクリーンエネルギーですが、「グリーンエネルギー」とは明確に区別されています。どちらも地球環境への負荷が少なく、気候変動や温暖化対策としても有効だとされていますが、資源エネルギー庁と環境省による「グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度」において明確な定義付けがなされています。
1.石油・石炭・天然ガス等の化石燃料による発電でないこと
2.原子力による発電でないこと。
3.発電過程における温室効果ガス及び硫黄酸化物・窒素酸化物等有害ガスの排出がゼロか、または著しく少ないこと。
以上3つすべてを満たす再生可能エネルギーによる発電方式と定められていますので、日本では再生可能エネルギーとほぼ同義で使われています。CO2をはじめとした温室効果ガスを排出しないため地球環境への負荷が少なく、どこにでも存在していて、しかも枯渇しないエネルギーということです。
原子力発電は、発電時におけるCO2排出量が他の電源と比較して少ないものの、高レベル放射性物質が生成されるため、それによる環境破壊や生態系への影響が懸念されているため、”グリーン”には定義されていません。そして、その高レベル放射性物質の処理方法すら確立されていません。事実、日本では東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故によって、その影響の甚大さを今も受け続けています。
さらに、日本で稼働、または休止中の原子力発電所は、軽水炉という形式の原子炉を使用しています。そして、その原子炉の中でウランを核分裂させることで熱エネルギーを得るのですが、このウランの埋蔵量はあと100年程度しか持たないことがわかっていて、資源量という観点でも持続可能性がありません。
グリーンエネルギーを使用した発電として定義されているのは、
・風力発電
・太陽光発電
・太陽熱発電
・バイオマス発電
・木質バイオマス発電
・水力発電
・地熱発電
・雪氷エネルギー発電
などがあげられます。ただ、発電効率の問題や設備にかかるコストなど、主要電源として発展させていくためには、さまざまな問題を解決していく必要もあります。日本では2030年度に再生可能エネルギー比率36〜38%程度を達成することを目標として掲げ、政府としてFIT(Feed in Tariff)制度(固定価格買取制度)により、再生可能エネルギーで発電された電力を、電力会社が一定の価格で一定期間買い取ることを国が保証する制度や、FIP(Feed in Premium)制度により、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電気を売電した際に、売電収入に加えてプレミアム(補助金)を上乗せした金額が支払われる制度など、制度面で後押しすることも進められています。
●自動車電動化の現状と展望
目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」とは少しずれますが、自動車の電動化についても見ておきたいと思います。
自動車の電動化は目標13「気候変動に具体的な対策を」とも密接に関連しています。また2015年にフランスのパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)において採択された、2020年以降の温暖化対策に関する国際的な枠組み、いわゆるパリ協定において、「産業革命以前と比較し、世界の平均気温の上昇を2℃より低く保ち(2℃目標)、かつ1.5℃に抑えること(1.5℃目標)を189か国が合意しましたが、なかでもCO2・メタン・フロンなどの温室効果ガスの排出量と森林・植林などによる吸収量を均衡させるカーボンニュートラルは、効果が期待できるとしてフォーカスされていて、自動車の電動化はそこに大きく貢献できるとして期待されています。
自動車産業は、2010年代中ごろから”100年に1度の変革期”といわれて久しいですが、変革の4つのトレンドを表すキーワードして「CASE」があります。
C = Connected(自動車のIoT)
A = Autonomous(自動運転)
S = Shared & Service(シェアリングサービス)
E = Electric(電動化)
の4つですが、自動車産業の今後にとっても電動化は重要な要素です。
電動化=EV化といってもいくつか方式があります。
まずは「BEV=バッテリー式電気自動車」は「Battery Electric Vehicle」の略で、エンジンがなく、バッテリーに充電した電気でモータを動かして走行します。
次に「HEV=ハイブリッド自動車」は、「Hybrid Electric Vehicle」の略で、ガソリンで動くエンジンと電気で動くモータ、2つの動力を備えている自動車です。モーターとエンジンをどのような配分で使うかによってHEVの中でもいくつかの方式に分かれています。
3つ目の「PHEV=プラグインハイブリッド自動車」は、「Plug-in Hybrid Electric Vehicle」です。エンジンとモータ、2つの動力が備わっているのはHEVと同じですが、HEVとは違って外部電源が利用できるのが大きな特徴です。またバッテリー容量も、HEVと比較して大きなものが主流です。ちなみにEREV(レンジエクステンダー自動車)という、バッテリを利用したモータ走行が主体となる車もあります。
最後に「FCEV=燃料電池自動車」は、「Fuel Cell Electric Vehicle」の略ですが、ほかのEVと違って水素を燃料とするEVです。水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーを使って、モーターを回して走る自動車のことです。ほかのEVの問題点として、走行距離の短さと充電時間の長さがあげられますが、FCEVの場合はどちらもガソリン車と遜色がないことも特徴です。
但し、どこまでをEVに含めるかは、各国によって見解が異なります。
さて、世界の自動車電動化の現状はどうなっているでしょうか。
まずヨーロッパではEUが主導する成長戦略「欧州グリーンディール」のなかで、2035年までに自動車の二酸化炭素排出量を100%削減するという目標を掲げています。それに沿う形で各国がガソリン車、ディーゼル車の新車販売を禁止する方針を示しています。ノルウェーやスウェーデンはより早期にEV化を進める方針ですが、多くの国が2035年までにHEV・PHEVも含めたガソリン車、ディーゼル車の新車販売禁止を打ち出しています。ただ、多くの大手自動車メーカーを抱えるドイツでは、合成燃料(e-fuel)対応の車に限り、継続的に販売が可能としていたり、EU全体でも、2026年時点で再度検討することが盛り込まれていたりもします。
次にアメリカについてみていきます。トランプ大統領は、今年1月の大統領就任式の中で、「グリーン・ニューディール政策を終了し、EV(電気自動車)の義務化を撤回する」と発言し、現実にその後、パリ協定からの離脱やバイデン政権下で「2030年までに販売される新車の50%以上をEV、プラグインハイブリッド(PHEV)、または燃料電池車(FCEV)とする」とした大統領令を廃止する大統領令に署名しました。ただし、EVそのものを否定したのではないし、アメリカ最大の電気自動車メーカー、テスラ社のイーロン・マスクCEOがトランプ政権の要職についていることなどを勘案すると、EV化の大きな流れは変わらないかもしれません。ただ、そのスピードは5年後、10年後に響いてくることななるかもしれません。
では次に中国を見てみたいと思います。中国政府は2035年までに、新車販売の50%を新エネルギー車(EV、PHEV、FCEV)にするという方針を発表しています。一方で、BYDを筆頭に価格競争力が高いモデルがグローバル市場を席巻していて、2023年の世界の電気自動車の販売台数約1400万台のうち60%が中国車が占めています。
最後にわが国日本ですが、2023年度の新車販売台数に占める電気自動車の割合はわずか3.6%にとどまっていて、全体の中で決して高い割合とはいえないのが現状です。
なぜ、日本国内でEVが普及しないのかというと、いくつかの要因が考えられます。それは、充電インフラの不足、ガソリン車と比べてEVの購入価格が高い、充電に時間を要する、航続距離が短い、充電インフラの標準化(EVやPHEVなどの充電設備の規格統一)などが挙げられます。
ただ、日本でも2020年10月に菅義偉首相(当時)が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と所信表明しましたが、その延長線で「2035年までに、乗用車の新車販売で電動車100%」の目標をかかげて、EV・FCEV・PHEVを対象に購入補助事業を行っています。
その目標に向けて、トヨタは2030年までにEVの年間販売台数350万台に、ホンダは2040年までにEV・FCEVの販売比率を100%に、スバルは2030年に全世界の市販車の50%をEV化するなど、各自動車メーカーでも独自の目標を立てて取り組んでいます。
もちろん、ここまで紹介した電動化への流れや目標が、変更されることも考えられますが、うまく電動化の歩みが進んだとして、自動車がすべてEV化され、走行時のCO2排出がゼロになったら、そこに供給される電気の発電時のCO2削減が、より重要になってくるかもしれません。
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