目標6「安全な水とトイレを世界中に」
- Shuichi Yamamoto
- 5月5日
- 読了時間: 5分

日本では、ほぼ100%に近い形で安全に管理された水と衛生施設(トイレ)が普及しており、普段はあまり考える機会もないかもしれません。
でも、世界に目を移すとおよそ20億人、世界人口のほぼ4人に1人が安全に管理された水を確保できていません。WHO(世界保健機関)では、安全な水を手に入れることのできる目安を「1km以内に1人1日20リットルの水を確保できる場所があること」と定義していますが、安全な水を確保できない地域では家から何時間もかけて川や池、沼などへ水を汲みにいったりして水を確保しています。こうした水がウイルスや寄生虫などで汚染されていても、ほかに選択肢がありません。その結果、下痢や病気にかかって死亡する5歳未満の子どもは、戦争や紛争によって命を落とす子どもの20倍も多いと言われています。また、水を汲みにいくのは子どもの労働とされる場合も多く、教育の機会を奪っていたりもします。
また、安全に管理された衛生施設(トイレ)を利用できていない人がなんと40億人、つまり世界人口の半分にも上ります。このうち6億人が家にトイレがなく、屋外で排泄することになりますが、女性は夜、暗くなってから用を足すこともあり、そこで性被害を受けるというような問題も起きています。
安全な水やトイレが確保できないことで、子どもや女性など、立場の弱い人が不利益や危険にさらされるということが起こっています。
このように、安全な水にアクセスできない原因としては、人口増加や気候変動、産業の発展など様々な問題が絡み合っているわけですが、その一つとして「水不足」があります。“水の惑星”と呼ばれる地球には、およそ14億立方メートルの水が存在しているそうです。壮大な数字で、どのくらいのスケールなのか想像が追い付きませんが、要するに地表面の70%が海であり、地球上に存在する水の97.5%が海水だそうです。そんなにも水に恵まれた地球ですが、生活に利用できる水はわずか0.01%に過ぎません。国連では、2030年まで現在の消費と生産パターンが続けば、世界の水供給の40%が不足すると予測しています。
水不足につながる原因としては、まず人口増加が上げられます。昨年2024年に80億人を突破した世界人口は、2050年には97億人に到達すると予想されます。その人口を支えるための食料生産や産業の発展に伴い、大量の水が必要になりますが、気候変動によってもたらされる異常気象による降水量の不安定化や酸性雨による水源の汚染、加えて生活排水や工業廃水が浄水処理されずに海や川、地下水に排出されることで、本来使えるはずだった水が汚染されたりすることで、供給量は逆に減少してしまうかもしれません。
日本では、冒頭に書いたように安全な水やトイレはかなり整っているといえます。水道の普及率は98%を超えているし、下水道も81%余りに普及しています。しかし、近年いたるところで水道管の破損などの問題が発生しており、今年(2025年)1月に埼玉県八潮市で発生した下水道管の損傷による大規模な道路陥没事故は記憶に新しいところです。国土交通省によると、日本における水道管の総延長約74万㎞のうち、法定耐用年数40年を経過している管路は約7万㎞(総延長の22%)にもおよび、10年後には約30万㎞(同約41%)に達します。また、下水道管渠の総延長は約49万㎞、そのうち法定耐用年数50年を経過している管渠が3万㎞(総延長の約7%)で、10年後には約9万㎞(同約19%)に達するといいます。人口減少や過疎化なども絡む問題ですが、早急な検討・対策が必要です。
これら“水”に関する問題に対して我々ができることですが、節水や生活排水の汚れを減らすなど、毎日の生活の中でできることはもちろんですが、ここでは「バーチャルウォーター(仮想水)」という考え方を紹介します。これは農産物や製品を輸入するということは、その生産物をつくるために使われた水も輸入しているという考え方です。
数年前に日本でもブームになった「アボカド」。2020年にはメキシコからの輸入を筆頭に、およそ8万トンが輸入されていて、およそ30年前から20数倍に増加しています。その栄養価の高さから“森のバター”などとも形容されますが、アボカド・ブームは日本だけでなく、消費量世界一のアメリカをはじめとした欧米や中国にも広がっており、その需要の高まりと価格の高騰により生産地では“グリーンゴールド”ともてはやされているそうです。ところがアボカド栽培には大量の水が必要になるため、産地での水不足が問題になっています。1トンのアボガドを栽培するのに、1,800立方メートルの水が必要とされ、バナナやオレンジなどほかの農産物と比較しても桁違いに大量の水を必要とします。
でも、我々先進国における美容や健康に対するライフスタイルの変化により、需要が高まればさらにその生産が増加し、さらに大量の水が使われることにつながっています。実際に産地では水不足だけでなく、地下水のくみ上げによる地盤沈下や、新たな農地をつくるために森林の違法伐採が行なわれるなど、さまざまな別の問題も起きています。
「安全な水とトイレを世界中に」届けるためには、実際に水として使うことだけでなく、我々が食すものや使うものの裏で使われている水にも注意を向ける必要がありそうです。
環境省が作成~公開している「仮想水計算機」では、さまざまな食料品のバーチャルウォーターが簡単に算出できるので、ぜひ一度使ってみてください。
<仮想水計算機>
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