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目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

今回は、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」です。そもそも"ジェンダー"とは?性別と同じ?こんな疑問を持たれる方もいると思います。まずはその解説から。


 性別(SEX)=性染色体・内性器・外性器など、生物学的・解剖学的・身体的な性差


 ジェンダー=社会的・文化的に構築された性差


つまり、ジェンダーは時代や社会状況によって変化するものです。今年の1月に就任した米国のトランプ大統領が、性別は「男」と「女」のみだという大統領令に署名したということがニュースになりましたが、性別をそのように規定したとしても、ジェンダーはそうではないということです。


また、ジェンダー平等に関連して、ヨーロッパを中心に広がりを見せていたDE&I(Diversity<多様性>、Equity<公正/公平性>、Inclusion<包摂性>)の取り組みに対して世界的に揺り戻しが起こっているようにも感じます。ことに米国では、保守層に見られた反DEIの動きをトランプ大統領が後押しする形で圧力が高まり、大企業や米国に進出している日本企業、さらには米国内の私立大学にまで及ぼうとしています。現にグーグルをはじめとした多くの企業がDEIの方針を転換する動きがみられます。

ただ一方で、アップルやゴールドマン・サックスなどでは、反DEIの株主提案が否決されたり、ハーバード大学のアラン・ガーバー学長が、 "どの政党が政権を握っているかに関係なく、いかなる政府も私立大学が何を教え、誰を入学させ雇用するか、またどのような研究分野や探究分野を追求できるかを指示すべきではない"との声明を発表して、米政府からのDEIへの取り組み廃止などの要求を拒否するなど、DEIを擁護する動きもせめぎあっています。


さて、このジェンダー平等について、私は長く広告業界に身を置いてきたので、「広告」という視点で見ていきたいと思います。

例えば、ジェンダーに関連してCMの炎上ということがたびたび起こっています。この原因の一つがアンコンシャスバイアスだと言われます。アンコンシャスバイアスとは無意識の偏見や思い込みのことで、例えば「A型の人はまじめだ」、なんてことがよく言われますが、世界中にA型の人は何十億人もいるわけで、それをひとくくりにするのは、常識で考えれば無茶な話ですが、目の前の人がA型だと聞くと何となく真面目そうに見えたりすることありますよね。でも、こういったことが原因で偏った見方のCMが制作され、放映されてしまって、あとから上層部の方が謝罪する、といったことがたびたび起きています。いくつか例を見ていきます。

出展:『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社新書)
出展:『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社新書)

上図は、東京大学大学院の瀬地山 角教授著「炎上CMでよみとくジェンダー論」から引用したものです。

第1象限の「性役割分業の現状追認」のパターンとして、大手食品メーカーのCMで、ある日のお母さんの1日を題材にして、朝、家族の朝食と子供のお弁当を作ってそのあと出勤。仕事を終えて保育園のお迎え、家に帰って家族の夕食づくり。最後にお母さんを応援するメッセージ。女性を応援したつもりなのが、"食事は女性がつくるもの"といったステレオタイプの考え方を追認してしまう結果になって、炎上してしまいました。


第2象限の「訴求層の分断」の例としては、大手化粧品会社の「25歳を過ぎたらカワイイをアップデートしよう」というメッセージが年齢による分断を助長するとして炎上しました。


第3象限の「訴求層の読み違い」の例としては、宮城県の観光PR動画が男性のみをターゲットにしているとして批判を浴びたり、2018年に東京都が2020オリンピック・パラリンピックに向けてアイデア募集広告を出稿した際に、"僕ら"と男性に限定したととられかねないコピーを使用して、謝罪~訂正に追い込まれた例なども見られます。


第4象限の「性役割分業の現状追認」の男性偏として、某自動車メーカーのCMでは、早朝から妻と子供を連れてサーフィンに出かける夫。その後サーフィンに興じる夫を見つめる妻と子どもが捉えられ、帰りの運転手は妻で、後部座席で眠る夫と子供。このCMも性役割分業の現状追認として炎上しました。


これらの例をみて、改めてアンコンシャスバイアスについて考えてみます。

これらのCMすべてに言えることだと思いますが、たくさんの大人が集まって、意見を交わして、上の承認を得たうえで制作~放映に至っていると思います。それなのになぜ炎上まで行ってしまうのかというと、そこに関わっている人たちの常識と、それを視聴する人たち(すべてとは言いませんが…)の常識が異なっているということではないでしょうか。つまり、広告の制作者とクライアント企業、そして視聴者の間でのコミュニケーションがうまくいっていないように感じます。

このコミュニケーションをとるうえで大切になってくるのが「多様性」です。例に挙げたCMの制作過程に、女性や多様な年齢層が参加していたのでしょうか。そしてもう一つ重要なのが、「心理的安全性」の問題です。もし、女性・男性、多様な年代が参加していても、決定層に対して忌憚なく意見を言えて、それに対して公平に議論する場がなければ意味がありません。例に挙げたCMの現場がどうだったかはわかりませんが、多様性や心理的安全性が確保されているかということは、CMに限らず、現代の企業活動には重要なことであり、ジェンダー問題についても同様であると考えます。


さらに、多様性を実現するためには、例えば男女間の賃金格差のような問題がなかなか是正されないまま残り続けていることも問題です。

下記に引用したように、男女の賃金格差は厳然として存在しています。

出展:厚生労働省 労働政策審議会
出展:厚生労働省 労働政策審議会

賃金格差とともに多様性を妨げている原因として、企業における女性役員は、2012年から2022年の10年間で、上場企業の女性の役員数は5.8倍に増加しているものの、未だ全役員に占める女性の割合は、9.1%(2022年7月末時点)とどまっていますし、2024年10月の衆議院総選挙の結果、下院=日本における衆議院の女性議員数は11%から15.7%に上昇しましたが、G7では6位の米国が29%で他の5カ国は30%を超えている現状を見ると、クォーター制の導入など強制的な施策が必要なのかもしれません。


現在はインターネットやSNSなどの普及によって、20年前とは比べものにならないほど情報の発信源も多様化しており、企業にとっては"炎上"のリスクは格段に高まっているとも言えます。

2025年はちょうど"昭和100年"にあたる年です。すでに遅きに失した感は否めないものの、男女問わず、そして個人も組織も「昭和的」な慣習や考え方からアップデートすることは必須であるといえそうです。

 
 
 

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