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目標13「気候変動に具体的な対策を」

更新日:6月30日

今回は目標13「気候変動に具体的な対策を」です。SDGsに掲げられた目標はどれも世界的な課題ですが、この13以降の目標は、より地球規模の目標になっています。


2015年12月にフランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、「パリ協定(Paris Agreement)」が採択され、2016年に発効しました。それは、京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減等に係る国際的な枠組みで、歴史上はじめて、すべての国が参加する合意※1です。

 ※1 米・第1次トランプ政権は2017年にパリ協定からの離脱を表明し、2020年11月に正式に離脱

   しました。その後、バイデン政権になって再加入しましたが、今年1月に就任したトランプ大統

   領が今年1月に再び離脱を表明し、国連に通知しました。これにより、米国は2026年1月に正式

   に離脱となります。

そこで合意されたのは、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求することです。

出展:非営利研究機関バークレー・アース Global Temperature Report for 2024
出展:非営利研究機関バークレー・アース Global Temperature Report for 2024

しかし、米・カリフォルニアに本拠を置く非営利研究機関バークレー・アースによると、2024年の世界平均気温は、従来産業革命以前の時代を基準としてきた1850年から1900年の平均気温より1.62 ± 0.06 ℃高く、重要な閾値である1.5 ℃をすでに超えて、1850年以降で最も暖かい年だったと報告しています。ただし、2023年と2024年に観測された温暖化の急上昇は極端であり、これまでの温暖化傾向からの予想以上の逸脱を示しているので、これが長期的なトレンドなのか、一時的な異常なのかは今後の状況を見る必要がありそうです。ただ、いずれにしても、上図からも明らかなように、地球の気温が上昇を続けていることは明確なようです。

この気候変動に何も対策をしなかった場合、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の報告によると世界の平均気温はどんどん上昇し、2100年頃の日本の真夏の最高気温は40.8℃、真夏日は連続50日、熱帯夜は連続60日になると予想しています。でも、ここ数年の夏の異常な高温を体験すると、そんなものでは収まらないのではないかと、恐怖すら感じてしまいます。


とはいえ、地球温暖化に対する懐疑論も世界には多数存在しています。その中には、気温上昇そのものへの懐疑論や人為的な活動が温室効果ガスを増加させたという原因への懐疑論、あるいは気候モデルによる温暖化予測の不確実性など様々です。これらの懐疑論に対して、動かしがたい証拠が示されています。下のグラフは2021年のIPCC報告書で示された過去2000年間の世界平均気温です。

引用:国立環境研究所 地球環境研究センター IPCC 第6次評価報告書政策決定者向け要約
引用:国立環境研究所 地球環境研究センター IPCC 第6次評価報告書政策決定者向け要約

産業革命から現在までの200年程度(特にはっきりしているのは最近50年程度)の世界平均気温の上昇は、過去2000年の中で特異な大きさとスピードであり、自然には起きえない温暖化であることが明らかにされています。

地球環境研究センターの江守 正多博士によれば、その特異な温暖化の主な原因が人間活動(主に温室効果ガスの増加)であることも明らかだということです。その理由は、実際に観測された気温上昇の大きさが、人間活動の効果によって理論的に説明できる気温上昇の大きさと一致するからだそうです。1850年~1900年の平均を基準とした、2011年~2020年の平均までの観測された世界平均気温変化量が+1.1℃であるのに対して、温室効果ガスの増加による効果が+1.5℃、大気汚染などその他の人間活動による冷却効果が-0.4℃で、差し引き+1.1℃が理論的に説明できる人間活動の効果だそうです。実際には各数値には不確かさの幅がありますが、それを考慮しても人間活動が唯一の主要な要因であるとのことです。そして、人間活動の効果のうち、最大の割合(+0.8℃程度)を説明するのが二酸化炭素の増加による効果だということです。


また、温室効果ガスはCO2だけでなく、メタンやフロンなどもあり、メタンの温室効果はCO2の28倍といわれていて、牛のゲップと一緒に排出されるメタンの濃度を低減する餌の開発など大変重要な開発も進められているようですが、温室効果ガスの総排出量に占めるCO2の割合は75%も占めていて、やはり最大の課題はCO2の排出削減にありそうです。

引用:JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター) 温室効果ガス総排出量に占めるガス別排出量の内訳
引用:JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター) 温室効果ガス総排出量に占めるガス別排出量の内訳

温室効果ガスが引き起こす気候変動によって、台風や洪水の激甚化、干ばつや山火事の頻発など、世界中で自然災害が激しくなっています。そして、災害の規模が拡大することで、復旧・復興にかかるコストや時間が増大して、社会に深刻な影響を及ぼしています。さらに、貧困層ほどこういった影響を受けやすいといった特徴もあります。

ほかにも、干ばつや水不足による感染症の蔓延や食糧生産量の減少、海洋生態系や陸上生態系など生物多様性への影響など、気候変動はさまざまな問題を引き起こしている、現在進行形の問題です。


そして、地球温暖化によって気候変動が引き起こされていることが明らかになった以上、我々は手を拱いていることはできません。

日本においては、2020年10月、菅義偉首相(当時)が所信表明演説において2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。これは、「排出」せざるを得なかったCO2と同じ量のCO2を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロにすることを目指すというものです。そのための具体的な取り組みとして、

 ・エネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出を

  目指して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定

 ・そのための投資や技術開発を促進する「GX推進法」の制定

 ・途上国との連携を通じて、脱炭素技術の普及と炭素クレジットの活用を進め

  る「JCM (Joint Crediting Mechanism)」の活用

などの方針を示しました。


産業界では、それに先行する形で様々な取り組みが進行しています。

自社だけでなく、サプライチェーン全体の排出量を可視化するため、Scope1(事業者自らによる排出)、Scope2(他社から供給された電気など使用による間接排出)、Scope3(それ以外の、他社による間接的な排出)の3つのカテゴリーに分類して原材料の調達から製品の廃棄まで、企業の活動に関わるすべての排出量を把握することで、排出量削減の具体的な目標設定や対策を公表したり、自社で再生可能エネルギーを導入して、「RE100(100%再生可能エネルギー)」 へ参加するなどの企業が増えています。

また、スタートアップも含めた多くの企業で、省エネ技術の開発や新電源の創出を目指した開発などが活発に進められています。


国外に目を向けてみると、世界有数の環境先進国デンマークは、2050年までに、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「気候中立国家」を目指しています。すでに国の電力の約半分を風力発電でまかなっていて、太陽光やバイオマス発電も組み合わせて再生可能エネルギーの比率を拡大しています。

特に注目されているのが「エネルギー諸島」構想で、洋上風力発電の中心拠点を人工島に集約し、周辺国にも電力を供給するという壮大な計画だそうです。交通や暖房の脱炭素化にも取り組んでおり、公共交通の電動化や家庭用ヒートポンプの普及が進められています。政府と市民、企業が一体となって進めるその取り組みは、世界中から注目されています。


最後に、官民一体となった世界的な取り組みとして、2017年に初開催された国際的な環境対策サミット「チェンジ・ナウ(ChangeNOW)」を紹介します。毎年春にイベントを開催していますが、今年も4月にフランスのパリで開催されました。スタートアップからグローバルに展開する企業やNGO/NPOなどが一堂に集い、環境保護の実践・戦略や、個性を最大限に生かした事業を紹介しました。多くの投資家たちも参加し、ビジネスネットワークを拡大できるイベントとなっています。

会場には、エネルギー、ファッション、生物多様性、ヘルスなど18の分野にわたって数百の展示ブースが並び、随所に設けられたステージでは1日中トークセッションが繰り広げられました。ワークショップや個別のミーティングなども行われ、国別展示ではオランダ、ウクライナ、南アフリカの3カ国が出展しました。

サミットでは、審査員たちを前に各企業が3分間で事業説明をする時間が与えられる「ピッチ」セッションも開かれ、審査員は環境事業アドバイザーやイノベーションセンター職員、基金事業者や政府関係者などで、2日間にわたり、12分野別のピッチに参加したのは800プロジェクトの応募の中から選ばれた150社でした。各ピッチで審査員は「社会にポジティブな影響を与える」と思った企業に投票し、こうした専門家たちから好評を得た12社が、最終的に「クードクール(Coups de Coeur)」として選出されました。

その中には、太陽熱を利用して空気から「水」を生成する技術や、断熱材のロックウールなどの、これまでリサイクルできなかった廃棄物を、巨大な太陽熱集熱器を利用して溶解し、エコなセメントをつくる技術などがクードクール(Coups de Coeur)に選出されました。

気候変動について、ネガティブなニュースが多い中で、SDGsの命題である「Transforming Our World (我々の世界を変革する)」を実践する多くの仲間が集うイベントとして、今後にも期待したいと思います。

 
 
 

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