目標1「貧困をなくそう」
- Shuichi Yamamoto
- 3月28日
- 読了時間: 4分
更新日:3月31日
SDGsは17の大きな目標と169のターゲットで構成されていますが、それぞれの目標の現状はどうなっているのでしょうか。これから、“世界”と“日本”という2つの視点で一つずつ見ていきたいと思います。

第1回目は目標1「貧困をなくそう」です。
持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が発表した「持続可能な開発報告書2024」によると、この目標1「貧困をなくそう」の進捗状況は前年から"停滞"しており、"重大な課題"を残しているとの評価です。
「貧困」と聞いても、世界第4位の経済大国“日本”に暮らしている私たちにはピンとこないという方もいるかもしれません。では、「貧困」とはどう定義されるのでしょうか。もちろん、さまざまな定義が存在しているわけですが、世界銀行が定義する「極度の貧困状態で暮らしている状態」というのが国際的に定着しています。1999年に初めて定義された当時は“1日1米ドル未満”と定義されましたが、衣食住など生活費の上昇等を考慮して、定期的に見直されており、現在では“1日2.15米ドル未満”とされています。このように必要最低限の生活水準を満たさない状態を「絶対的貧困」と認識されていますが、一方で、最低限の生活を送るために必要な所得は国によって異なります。そこで「所得が国民の中央値の半分に満たない人」を「相対的貧困」とされていて、2021年のOECD(経済協力開発機構)の統計によると、日本の相対的貧困率は15.7%で、加盟38か国中7位で、G7の中では最も高い水準でした。これを見ても貧困問題は、決して遠い国の問題ではなく、すぐ身近で起きている問題でもあるのです。
このような所得を基準とした考え方のほかにも、国連が発行する「人間開発報告書」のなかで使用されている多元的貧困指数(Global Multidimensional Poverty Index:MPI)という指標もあります。
これはオックスフォード大学と共同で開発されたもので、貧困を「保健」「教育」「生活水準」の3つの側面から捉えようとする指標です。たとえば、保健では「(世帯内で)18歳未満の子どもが過去5年間のうちに死亡している」、教育では「世帯内で誰も6年間の教育を修了していない」、生活水準では「安全な飲み水が手に入らないか、安全な飲み水を手に入れるために30分以上歩かなければならない」など、合計10の指標が設定されており、うち3つ以上の項目に当てはまると「貧困状態にある」とされます。

この指標に当てはめると、所得指標による絶対的貧困層の約2倍にあたる13億人が多元的貧困状態にあるとされ、そのうち約半数(6億4,400万人)が子どもだとされています。さらに問題が複雑なのは、多元的貧困状態にある人の67%は中所得国に暮らす人々で、単に国が貧しいからという問題ではありません、
では、貧困の原因はどこにあるのでしょうか。もちろん原因は一つではないし、複数の要因が絡み合っていることも多く見受けられます。
紛争や戦争が地域や国の経済・社会に壊滅的な影響を与えたり、気候変動による干ばつや洪水、猛暑や厳冬などの自然災害による影響で貧困に陥ることもあるかもしれません。また、富の再分配が進まず、格差が広がることも一因かもしれません。
さらに貧困問題で深刻なのは「世代間連鎖」です。親が貧困の場合、子どもが貧困から抜け出すことが困難になることは想像に難くありません。その一つの原因とされるのが「教育」です。親が教育を受けずに育った場合、教育の重要性がわからないために子どもにも教育を受けさせず、子どもは知識や技術を得ずに育ち、低金銀で不安定な仕事しかできずに貧困が連鎖する。こんなことが世界中で起こっています。
そのほかにも、食糧問題なども貧困に大きくかかわっており、世界中でさまざまな問題に多くの人たちが貧困撲滅に向けて活動しています。その甲斐あってか1990年に18億9,500万人だった貧困者が、2015年には7億3,400万人まで減少しています。とはいえ、いまだ10人に1人は極度の貧困に苦しんでおり、相対的貧困に陥っている人も含めて、前述の世代間連鎖などにより社会的脆弱層、特に子どもたちに大きくのしかかってきやすいのもこの問題です。
「世界中の、あらゆる形の貧困を終わらせる」というSDGs 目標1に掲げられた貧困撲滅を実現するためには、まだまだ多くのアイデアと実際の取り組みが必要だと言えそうです。
参考:国際NGO Save the Children(セイブ・ザ・チルドレン)
国際NGO World Vision(ワールド・ビジョン)
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